ある時はエフェクターを偏愛するライター、またある時はフォトグラファー、そしてまたある時はバンドとともに世界を飛び回るギターテック、細川雄一郎。今回、日本のインストゥルメンタル・ロックバンド、MONOのギターテックとして北米〜南米ツアーに同行した筆者が、知られざる現地ライブハウスの様子や海外ツアーの実態を日記形式で綴ってくれました。ロサンゼルスからメキシコシティまで、全13回にわたる短期集中スペシャル連載スタート!

「アメリカは世界最高の音」とTakaさんは言った

[6月11日 11:15]
成田空港から約9時間のフライトを終え、僕とMONOは無事にロサンゼルス国際空港へ降り立った。天気は快晴。アメリカ西海岸と聞いて誰もが思い浮かべる、パリピ御用達の強い日差し。そして、特有の乾いた風――がやけに強く、すげー寒い。当日のLAの最高気温は20℃。風は冷たく、日本の秋ぐらいの陽気だった。

到着初日にライブは無く、時間が十分にあるので、寒い寒いとは言いつつドラムのTakadaさんとサンタモニカのビーチに観光へ。ヤシの木の並木道と白い砂が美しいビーチであるわけだが、とにかく寒い。そして、写真からはその寒さが全く伝わらないことに驚く。時差ボケ、長いフライト、そしてサンタモニカ~ヴェニスのビーチを1時間/7ドルで借りた自転車で爆走したことによる疲れに苛まれ、夜は空港近くにあるホテルのベッドで泥のように眠った。

[6月12日 14:00]
日は明けて6月12日。ホテルにツアーバスが到着。前回のUSツアーと同じバスで、MONOのメンバー4人の他に、ドライバーのトミー、PAスタッフのトム、ライティングスタッフのコリー、ツアーマネージャーツアーのリボー、そして僕、合わせて9人が乗車し、ツアー各地をまわる。車内にはリビング、トイレ、そして12床のベッドがあり、さながら巨大キャンピングカー、もしくは移動型ホテルといったところ。
電子レンジ、冷蔵庫、テレビもあれば、マッサージチェアなんてものも用意されている。僕たちはライブが終わればこのバスに戻って寝て、起きた頃には次の都市に着いている、という毎日を繰り返す。

一般的にはこのバスに加えて楽器、機材類を収納するトレーラーを引いて移動するが、このバスは生活スペースの床下に大きな収納スペースがあり、そこに大量の機材類、そして物販を収納し、各地をまわるのだ。

[6月12日 15:00]
そのバスに約3週間ぶりに乗り込み、1本目のライブ会場であるロサンゼルスの「Globe Theatre」という“ヴェニュー”へ。このヴェニューとは、日本で言うところのライブハウスの意味で、逆に海外ではヨーロッパでもアメリカでもライブハウスという言葉は使わず、ライブハウスは全てヴェニューと呼ぶ。
ヴェニューに着くと数人の活きの良いスタッフがお出迎えしてくれ、楽しそうに機材の搬入も手伝ってくれる。Globe Theatreはロサンゼルスに古くからあるヴェニューのようで、キャパは約1000人。ところどころにある電球の電飾が、いかにもアメリカの劇場、という雰囲気を誇張していた。

今日は特に急いで機材を搬入する。というのも、機材類全ての状態をチェックするためだ。
このチェックはツアー初日恒例の儀で、僕、そしてメンバーそれぞれが機材の状態をチェックし、問題が無いか、その後に続くツアーに耐えられるかを確認する。震動に弱い真空管アンプ類は特に念入りに。この機材類はレンタル品などではなく、全てMONOの所有物で、日本にいる間はアメリカの倉庫に預けられている。
日本国外での活動が長く、海外ツアーの頻度が高いMONOは、アメリカでも必要な機材を一通り購入し、用意している。その量は1バンドとしてはかなり多い方で、
Fender Twin Reverb(ギターアンプ)4台
Marshall JCM2000/DSL100(ギターアンプ)1台
Marshall 1960(ギター用スピーカー)2台
Ampeg B2R(ベースアンプ)2台
Sunn 215(ベース用スピーカー)1台
Ludwigのドラムセット
Yamahaの88鍵大型キーボード
グロッケン2台
ステージで使う全員分の椅子
ギタースタンド
などが用意されている。これらをチェックし、もし状態が悪いものがあれば早急に修理、もしくはすぐに代品を手配しなければならない。今回は幸運にも全て問題無く使えそうだった。

[16:00]
MONOのギターはライブの前に必ず弦を交換する。つまり、ライブの本数×ギターの本数分だけ弦が必要となり、今回も約50セットのギター弦でカバンがパンパンだった。しかし、今回はまだマシな方で、38カ所をまわった前回のヨーロッパツアーではギター弦を80セット以上も用意していた。80セット以上となると出費もそれなりだが、MONOはずっとこの弦交換の儀を続けているという。
その弦を使ってTakaさんのギターの弦を僕が交換し、そしてYodaさんは自らで弦を交換する。というのも、Yodaさんは楽器店で長く勤務していた経験があり、ギターのセットアップなどに関して詳しい知識があるのだ。僕が参加する前のツアー中、YodaさんがTakaさんのギターを本格的に修理していたこともあったという。

[16:30]
サウンドチェック開始。日本の多くの会場と比べて、いや、むしろ比べものにならないくらいに音が良い。この会場に限らず、アメリカは音が良いと思う。僕が初めてアメリカをまわる前、Takaさんも「アメリカは世界最高の音」と言っていた。音の濃度が高く、かといってクドさも無く、音に適度な分離感もある。不思議なもので、アメリカの他のヴェニューでもやっぱり音が良い。日本やヨーロッパよりもずっとパワフルな音だ。
ちなみに、Yodaさんはイギリスの音が好きだとか。確かに、イギリスはヨーロッパの中でも少し違って、無骨でカッコイイ音だった。多くのアーティストがアメリカやイギリスでレコーディングをしたがる気持ちもわかる。

[19:00]
今回のツアーのうち、初めの5日間はアメリカのオルタナティヴ・バンド、LOWとのダブルヘッドラインとなる。これは、LOWの大ファンであるTakaさんの念願叶ってのことで、そのLOWの一行が到着した。LOWが持ち込む機材は必要最低限といった雰囲気で、“転換”が楽になりそうでありがたい。MONOとLOW、2バンドでセッションを行う予定の曲があるので、その曲に合わせたステージセッティングを決め、綿密にリハーサルを重ね、本番に備えた。

[22:30]
先に演奏を行なうLOWの出番が終わり、ステージの転換。LOWの機材類はさほど多くないため、予定通り15分でそれらをこなし、いよいよMONOのライブ本番へ。ステージ上のモニター環境は非常に良く、何の問題も無い完璧なステージとなった。これは会場の音響特性もあっただろうが、PAエンジニアのトムの手腕もあるだろう。

[0:45]
ライブが終わり、全ての機材類をケースに収め、搬出の時間。機材類に加え、物販もあるので、本番を終えた後でありながら、これが一番の力仕事となる。全ての荷物をバスに詰め込んだら次の都市、サンフランシスコに向けて出発。既に午前3時。ライブは大成功だったこともあり、全員が簡単な乾杯を済ませたのち、僕は寝落ちした。

vol.2に続く

Photographs by Yuichiro Hosokawa
MONO Official Website

[vol.2] 世界のヴェニューから「Fillmore」in San Francisco