ある時はエフェクターを偏愛するライター、またある時はフォトグラファー、そしてまたある時はバンドとともに世界を飛び回るギターテック、細川雄一郎。今回、日本のインストゥルメンタル・ロックバンド、MONOのギターテックとして北米〜南米ツアーに同行した筆者が、知られざる現地ライブハウスの様子や海外ツアーの実態を日記形式で綴ってくれました。ロサンゼルスからメキシコシティまで、全13回にわたる短期集中スペシャル連載スタート!

今日のヴェニュー “Wonder Ballroom”

[6月15日 13:30]
サンフランシスコから1日の移動日を挟み、ポートランドでの朝、というか昼過ぎに目が覚めた。時差ボケはまだ治らない。昨日はサンフランシスコからの移動日で、移動を終えた夜にMONOのメンバーと一緒に豪勢なスペイン料理をたらふく食べ、10時間以上も寝てしまっていた———10時間寝てるんだったら時差ボケ関係ないじゃん。
バスは既に今日出演予定のヴェニューの駐車場に止められており、搬入まで各々が街を散策しているようだったが、僕はベッドから出ず、ヴェニューから届くWi-Fiの電波をバスの中から拝借し、ネットサーフィンを楽しんでいた。

[15:00]
搬入の時間が来た。残念ながら外は雨が降っている。急いで機材と物販を今日のヴェニュー、「Wonder Ballroom」に運び込む。ヴェニューの中に入ると、そこは体育館のような装いだったが、 日本に無いセンスを感じさせる半円形のステージがフロアにせり出している。そしてフロアの中央には、ドラクエに出て来そうな怪しい階段が唐突にあった。

怪しい階段を降りた先は、木材を活かした作りのオシャレなバースペースで、そこには落ち着いてコーヒーを飲んでいるTamakiさんがいた。何気なくRed SparowesのバンドTを着ている。

[17:00]
ステージのセッティングは速やかに終わり、スケジュール通りにMONOのサウンドチェックが始まった。Takadaさんは今日の午前中に楽器屋に行っていたらしく、そこで新たに買った1970年代のシンバルスタンドを早速使っている。Takadaさんは自他共に認めるヴィンテージLudwigの大ファンで、MONOでは1970年代のLudwigで統一したセットを組んでいる。

しかも、スネア、タム、バスドラムような大まかな部分だけでなく、スタンド類、ペダル、スローンまで全てヴィンテージだ。特に愛用しているキックペダル、LudwigのSpeed Kingに至っては、ヴィンテージ品だけで10台以上持っているらしい。先月のアメリカツアー中でも、更に1台購入したのを間近で見ていた。次はヴィンテージのLudwigオリジナルのドラムキーを狙っているらしい。たかがドラムキーなのに、それだけで1万円ぐらいはするのだとか。

[20:15]
LOWのスタート直前、MONOとLOWのセッションに備えて、MONOの機材をセッティングしにステージへ向かう。全てのアンプのスタンバイスイッチをONにし、直ぐにでも音が出る状態を確認してからチューナーでミュートしておく。が、ここでTakaさんのアンプから音が出ないことに気づく。「音が出ない状態」は様々な原因が考えられるので、ここでは慌てず、ギター、エフェクターボード、アンプ、ケーブル類、どこに問題があるのかを確かめなくてはならない。アンプに近い順から音が出るかどうかをチェックしていき、音が出ていない箇所を見つけ出すのだが、今回の原因は非常に簡単なことで、エフェクターボードとアンプを繋ぐケーブルがほんの僅かに抜けているだけだった。こういった本番前のチェックの重要さを改めて思い知らされる出来事は、まるで戒めのように要所要所で起こる。

[22:10]
LOWの演奏が終わり、転換はスムーズに進んだが、予定より10分押しでMONOの演奏がスタート。本番中にトラブルは無く、今日も素晴らしいライブとなった。トムのPAの腕が良いことも起因していると思う。

トムはLOWのPAも兼任している腕利きのサウンドガイ。トムの腕、そして耳のセンスは素晴らしく、MONOのメンバー曰くステージ上のモニター環境もかなり良いようだし、会場の外音もラウドであるのに、素晴らしく聴きやすい音質にまとめられている。この”ラウド”と”美麗”という、相反する部分がある2つの要素をこんなにも高い次元で共存させることはかなり難しいはず。どの会場でもそれが実現できているトムの手腕はホンモノなのだろう。

そして、趣味が僕と同じく写真ということでも気が合う。ILLFORDの白黒フィルムが装填された、2台の渋~いカメラをこのツアーにも持って来ている。その他にギターも趣味の一つで、Takaさんが使っているFender Jazzmasterと同い年(66年製)で同じカラーのFender Stratocasterを持っているらしい。日本で買うとすれば100万円前後だが、1,000ドルで買ったとか。トムは「So many years ago.(かなり昔のことだよ)」とは言いつつも、66年製のストラトが1,000ドルというのは、僕が知っている中で過去最安値だ。そんなトムといつも通り機材を片し、各々がシャワーを浴びて、次のヴェニューがあるシアトルに向かうのは午前3時過ぎだった。

vol.4に続く

Photographs by Yuichiro Hosokawa
MONO Official Website

[vol.2] 世界のヴェニューから「Fillmore」in San Francisco