[最終回] ある時はエフェクターを偏愛するライター、またある時はフォトグラファー、そしてまたある時はバンドとともに世界を飛び回るギターテック、細川雄一郎。今回、日本のインストゥルメンタル・ロックバンド、MONOのギターテックとして北米〜南米ツアーに同行した筆者が、知られざる現地ライブハウスの様子や海外ツアーの実態を日記形式で綴ってくれました。ロサンゼルスからメキシコシティまで、全13回にわたる短期集中スペシャル連載スタート!

今日のヴェニュー “El Plaza Condesa”

[7月1日 8:30]
ホテルを朝8時に出発し、”ドン・ミゲル・イダルゴ・イ・コスティージャ” 国際空港へ向かう。MONO、Deafheavenのメンバー、そして僕たちクルーはグアダラハラからメキシコ・シティに飛行機で移動する。移動時間は3時間ほどだが、ライブ当日に現地へ飛行機で向かうとなるとスケジュールはかなりタイトだ。

[11:30]
メキシコ・シティ国際空港へ到着。グアダラハラのドン・ミゲル・イダルゴ・イ・コスティージャ国際空港と打って変わって名前が短い、期待してたのに。早速、MONOファンの1人がレコードを持ってサインをねだりに走って来た。その光景を撮っていると、リボーがタイミング良く写真に中指を滑り込ませてきた。リボー曰く、この他人が撮る写真に意図的に映り込む行為を英語圏ではPhoto Bumpと言うらしい。リボーはマジで全く関係ない人の写真にも平気でPhoto Bumpを決める。パンクスだなぁ。

[13:15]
今日のヴェニュー、「El Plaza Condesa」に到着。専用の大きな機材搬入口を持った巨大ヴェニューだ。

ステージもフロアもめっちゃ広い。キャパは約1,800人とのことだが、数字以上に会場がデカイ。ちなみに、ステージから見える巨大な2つの目はコーラなどのジュース瓶の蓋を壁に貼っつけて作られているとか。

[13:30]
今日もDeafheavenの出番が後、つまりサウンドチェックはMONOが後。Deafheavenのサウンドチェックを待つ間、楽屋にあるケータリングで軽食を取る。この間、MONOがレンタルをリクエストしていたギタースタンドが届いていなかったようなので、現地のバックラインを担当している業者にそれを注文。1時間ほどで届くとか。危うかったが、サウンドチェックには間に合いそうだ。

ツアー最終日となると、急に溜まっていた疲労が体に出始める。緊張が解けかかっているのか。正直、僕も体調が芳しくない。中にはついついソファーで横になってしまう者もいた。

[15:30]
Deafheavenが遅れて到着し、サウンドチェックを開始する。DeafheavenもMONOと同様、アンプ類とドラムはこのメキシコ・シティの業者からレンタルとなる。しかし、不運にもDeafheavenがリクエストしていたギターアンプは”全て”故障していた。”全て”、である。究極的な悲劇だ・・・結局、Deafheavenはアンプを新たにリクエストし直し、本番前までに届けられるという。MONOのギタースタンドの件もあって、気分が落ち着かない。

[16:00]
MONOがサウンドチェックを始める。事前にオーダーしたギタースタンドはギリギリ間に合い、レンタルした機材は全て機能しているが、それでもMONO私物の機材と比べれば音は違う。しかし、”新品同様の音が良い機材”というオプションをリクエストに加えることはできない。複数のアンプ、スピーカー、ドラム、鍵盤まで、細かなリクエストが通っているだけでもかなり有難い環境なのだ。実際、MONOが海外ツアーを始めた頃には、同じFenderのアンプでも今使っているものと比べ物にならないくらい安価なトランジスタアンプが会場に届いていたこともあったという。ドラムセットも昔は有名ブランドであるLudwigのものではなく、もっと安いセットだったとか。そこから着実に前へ進み、今のように大きな会場でいつもと同じ機材が用意されるまでに至るには、とてつもなく長い道のりがあったそうだ。その壮絶なストーリーを書き始めるとあまりにも長過ぎてしまうので、ひとまず止そう。
とりあえず、アンプ全滅というDeafheavenの悲劇的な前例もあり、アンプの真空管が消耗していると怖いので、会場で発見したファンを各真空管アンプの後ろから当て続けることにした。モーターなどの回転系機材をアンプと同じ電源から取るとノイズが乗ることがあるが、今日の会場は電源環境が良く、そういったノイズは一切出なかった。

サウンドチェック中、まだオープンまで4時間もあるというのに、会場の外ではファンが行列を成していた。

[18:30]
サウンドチェックが終了し、夕飯までにまだ時間があったため、Takadaさんと街へ繰り出すことに。いかにもメキシコらしい風景が広がっている。今日は土曜日ということもあり、活気付いた街の道端には多くの屋台が軒を連ね、公園ではなぜかフラフープをしている人が多かった。僕とTakadaさんはChurrería(チュロス専門店の意味)でチュロスを購入し、パクつきながら帰る最中、そこでもファンからのサインを求められた。

ヴェニューへ戻る途中、初めてその外観を見る。デケえな・・・。

引きで見るとこの大きさ。オルタナティブなバンドのライブ会場としては日本では考えられない規模感だ。

街から戻ると、ヴェニューのケータリングに夕食が用意されていた。美味そうな匂いがプンプンで、まずは鼻が幸せに。

本番が近いので食べる量は少なめに。しかし、見た目に美味そうなものはしっかりとゲット。このツアー中、意識的に肉類を食べてスタミナを保ってきた。疲れている時だけに今日も肉だけはしっかり食う。美味いし。

[20:00]
本番が始まる。が、1曲目のイントロで鳴らされる鉄琴の音がステージ上のモニターに返っていない。サウンドチェックの時、MONOのメンバー、PAのノエル、そして僕が最低でも3回は言っていたのに。更に続けてTakadaさんのモニターが落下するアクシデント。すぐにヴェニューガイズと話し、若い衆がモニターを固定しにいく。その間、僕は焚かれ過ぎたスモークを抑え、暗過ぎてステージが見えないライティングに注文をつけ、鉄琴をモニターに返すことをヴェニューのサウンドガイに嫌われない程度に、でも曲が終わるごとに毎回伝えた。スペイン語と英語を話せる人に通訳を頼んでまで。

それでも、今日のライブが失敗だったわけでは決してない。この問題はステージ上だけで起こっており、フロアでライブを見ている分には誰も知り得ない。MONOのメンバーはトラブルの渦中にいながら、いつも通りの演奏をしきっていた。演奏力はもちろん、精神力の強さを感じさせる演奏だった。

[22:00]
MONOの演奏が終わった。そして、転換も終わった。機材のパッキングも終わった。つまり、このツアーがほぼ終わった。
MONOの演奏が終わった途端、あれだけバカデカいと感じた昨日の歓声よりも、更にバカデカい歓声が巻き起こった。客席にいる全員がMONOの演奏、音楽を自身の最大出力で讃えていたようだった。そして、その凄まじい歓声は少なくとも2分以上は止まなかった。

 

MONO Instagram オフィシャルアカウントより転載

[7月2日 11:30]
僕は1人、メキシコシティにあるホテル近くの屋台で昼飯を食べていた。大振りのタコスが一つ25ペソ。日本円では150円弱。薬味とサルサソースはかけ放題。スペイン語しか通じないセニョリータに身振り手振りで注文した。
昨日のライブが終わった後、簡単な乾杯をし、Deafheavenのメンバーたちとハグをし、会場からほど近いホテルへチェックインした。ノエルは次のDinosaur.Jrのツアーに合流するため、今日の朝9時ごろにはすでにメキシコを発っている。リボーも明日のLA国際空港までは一緒だが、その後は自宅のあるチェコへ向かう便に乗るだろう。Takaさん曰く、別れの時が長々しいのは日本だけ。実際、みんなあっさり帰路なり次の進路なりに就いた。
それ以外にも日本国内と国外で大きく違うと感じることが一つある。それは、人の素直さだ。日本国外では多くの人が良いものにはより意欲的だし、悪いと思えば上司だろうとファッキンな態度を示す。感情が豊かだし、形がないものの価値も知っている。だからこそ、ホンモノはホンモノとして評価されることが多く、MONOはホンモノだからこそ、そんな国々で評価され、成功しているのだと思う。日本はどうだろうか。

最後に、もしこのコラムを読んでくれている方の中にMONOのライブを観たことがない人がいたとしたら、是非一度観てみてほしい。僕は初めてMONOを観た時のことをありありと覚えている。その凄まじい衝撃の音が止んだ後、物販に一番乗りしてライブDVD(The Sky Remains The Same As Ever)を買って帰った。ライブを観終わったその瞬間から、すでにもう一度ライブを観たいという衝動に駆られていた。以降、全てのCDを買い揃え、東京のライブはファンとして全て観に行った。間違いなく、僕の人生を変えたバンドだ。

「人の価値の大部分は、どれだけ他人に影響を与えられたかで決まる」、というのが僕の持論なのだが、その持論からすれば、人の人生を変えることができるMONOは、間違いなく世界で聴かれるべき価値を持ったバンドなのだと思う。現在、MONOの活動の場の多くは海外だが、日本でもMONOの音楽の素晴らしさがより広まって欲しいと思うし、同時に、MONO以外にもホンモノの音楽を奏でている人たちのための正しい道が作られることを切に願う。今後も、いち音楽ファンとして。

『世界のヴェニューから』バックナンバー

Photographs by Yuichiro Hosokawa
MONO Official Website