ある時はエフェクターを偏愛するライター、またある時はフォトグラファー、そしてまたある時はバンドとともに世界を飛び回るギターテック、細川雄一郎。今回、日本のインストゥルメンタル・ロックバンド、MONOのギターテックとして北米〜南米ツアーに同行した筆者が、知られざる現地ライブハウスの様子や海外ツアーの実態を日記形式で綴ってくれました。ロサンゼルスからメキシコシティまで、全13回にわたる短期集中スペシャル連載スタート!

今日のヴェニュー “Foro Independencia”

[6月29日 0:30]
アイオワ・シティでのライブが終わり、バスに戻ると、ツアーバスのドライバーであるトミーからお別れのメッセージがホワイトボードに書かれていた。そうか、メキシコまでは飛行機で行くから、トミーの運転はこの後のシカゴの空港までの夜走りで最後か…

[10:30]
翌朝、シカゴに着くと、トミーは僕たちが乗って来たバスでそのまま次のツアーに旅立って行った。このままカナダまで走るらしい。タフ過ぎるぜ、トミーボーイ。トミーは純粋に音楽が好きで、それを象徴するかのような澄み切った眼をしていた。このコラムでの登場回数は少ないながらも最高にナイスガイだ。

[20:00]
シカゴ・オヘア国際空港から飛行機でメキシコのグアダラハラに入った。この時点で公用語がシームレスにスペイン語へ変更される。まずは市内のホテルへチェックイン。ホテルまでの道のりでは、野良犬の死体や、トラックの荷台に乗って移動するアサルトライフルを持った警官隊など、パンチのある景色ばかりを見せられたが、着いたホテルは綺麗でサービスも良く、ベルボーイも超絶にジェントル。

部屋に入り、まずTakaさんのエフェクターボードのケースを開ける・・・・・・はい、ぐっちゃぐちゃです。解ってて開けました。これは固定が甘かったわけではなく、空港で出入国の際に検査をされた結果だ。これはどんなにエフェクター類を強く固定してもムダで、むしろ強く固定した箇所は徹底的に壊されたこともある。海外、特に中南米の空港を使用する際、4~5回に1回はこの状態になるので、その都度ケースの中身を確認しなければならない。これはエフェクターボードだけでなく、楽器本体のケースも同様で、内部の仕切りなどが壊されて戻ってくることも少なくない。テロ対策のためとはいえ、ものを壊すのはやめて欲しい、マジで。

30分ほどかけて全てを元通りに戻し、とりあえず電源が入ることを確認する。明日のサウンドチェックの際に音も確認した方が良さそうだ。

[21:30]
夕飯を取るため、現地のプロモーターと共に近くの大衆的な食堂へ。初の本場のメキシコ料理。こ、これは…凄まじく美味いじゃないか…同じ肉や野菜であっても、素材の味が日本、そしてアメリカとも大きく違う。素材自体の味が濃く、風味も強い。加えて味付けはどの料理も共通して濃いめで、解りやすく、本能的に美味い。そしてクソ安い。永住したい。喉はやけに乾きつつも、満ち足りた気分で床に就いた。

[6月30日 12:00]
夜が明けてライブ当日。ホテルから今日のヴェニュー、「Foro Independencia」に移動する。いかにもメキシコ、といった雰囲気のテラスがある会場だ。このテラスが夜になればテキーラの大宴会場に変わるのだろう。そういえば昨晩、Tamakiさんもテキーラベースのカクテル、マルガリータを美味しそうに飲んでいたな。

フロアは縦方向に広く、キャパは約600人とのこと。ステージ、フロアの内装は全体的に無骨で、秘密基地的なカッコ良さがある。音響設備はそこまで良くはないが、雰囲気のある会場だ。

[14:00]
今日、明日のライブはアメリカのDeafheavenとダブルヘッドラインとなる。そのDeafheavenのサウンドチェックが終わり、MONOもサウンドチェックを始める。昨日、出入国検査官にぐちゃぐちゃにされたTakaさんとYodaさんのボードは問題ないようだ。しかし、会場の機材トラブルが続出。予想通り、タフな1日になるかもしれない。

念入りにサウンドチェックを見守っている最中、壁際に何かの気配を感じた。

………。

モグラかな。

[16:30]
サウンドチェックが終わり、プロモーターと共に昼食兼夕食を取りにピザ屋へ。大量のピザを食べ終わり、帰ろうとすると、MONOを待ち構えていたファンに囲まれてしまい、急遽サイン会&撮影会へ。MONOの人気はメキシコでも絶大のようだ。

[21:30]
いよいよライブ本番。今日から2日間はMONOの出番が先だ。会場は満員で、フロアの奥の奥まで人で埋まっている。更に、ステージと客席の間に作られたフォトグラファースペースも満員。ステージ上へは20台近くの一眼レフが向けられている。凄まじい人気っぷりだ。しかし、ステージ上のモニター環境は悪く、更にドラム用のマイクケーブルもいきなり断線。あと、とにかく暑い。

[21:45]
そして、アツい。演奏が終わると、ここにいる人たち全員が叫んでるんじゃないかというような音量のMONOコール。PAを通った音よりもデカイ。次のDeafheavenがやりづらいだろ、これじゃ。。。でも、間違いなく、最高のファンたちだ。この光景は音楽が作る奇跡と言っても過言ではないはず。日本でもこんな光景が見てみたいと、本当に心から思う。

[22:15]
とは思いつつも、そそくさとMONOの機材をステージから捌け、Deafheavenの演奏が始まる。機材をパッキングしつつ、ステージ脇から覗き見してみるが、超カッケー!!!ジャンルとしてはブラックメタル寄りなのだろうが、愁いコードをオルタナな音色でハイスピードにブチ撒けまくっている様は、ジャンル関係なくカタルシス。しかし、後ろ髪ひかれる思いでありながら、僕たちは明日に備えて早めにホテルに戻ることにした。明日はいよいよこのツアーの最終日。再度、飛行機に乗り、メキシコシティに向かうための朝7時起き。バンドマンたちの朝はみんなが思ってるよりも早いのである。

※vol.13に続く
『世界のヴェニューから』バックナンバー

Photographs by Yuichiro Hosokawa
MONO Official Website