ある時はエフェクターを偏愛するライター、またある時はフォトグラファー、そしてまたある時はバンドとともに世界を飛び回るギターテック、細川雄一郎。今回、日本のインストゥルメンタル・ロックバンド、MONOのギターテックとして北米〜南米ツアーに同行した筆者が、知られざる現地ライブハウスの様子や海外ツアーの実態を日記形式で綴ってくれました。ロサンゼルスからメキシコシティまで、全13回にわたる短期集中スペシャル連載スタート!

今日のヴェニュー“The Good Will Social Club”

[6月25日 13:50]
久々にホワイトボードの写真。これはツアーバスのリビングルームに貼ってあって、ツアーマネージャーのリボーがその日のスケジュールを毎日書き換えてくれている。まずこのホワイトボードを確認して1日が始まるのだが、またタイムゾーンが変わっているようで、腕時計の時間が一時間ズレれていた。

[14:00]
バスを降りると、目の前にあるテラス席でYodaさんがアイスラテを飲んていた。どうやらこのオシャレなカフェテラスを持つお店が今日のヴェニュー、「The Good Will」のようだ。

早速、ヴェニューの中に入ってみると、そこは不思議な空間だった。ステージとバーカウンターを備えたライブフロアと、ノマドワーカーが喜びそうなシャレオツなカフェスペース、そしてホットドッグ屋が薄い壁一枚で仕切られている。出演者は飲み物が頼み放題、飲み放題ということで、貧乏性の僕は特に高価格なアイスモカを頼み、ゆっくりするも、機材の搬入までまだ2時間もある。折角なので、そうそう来ることのないであろう、このウィニペグの街を練り歩いてみることにした。

[14:15]
ウィキペディアで調べる限り、ウィニペグはマニトバ州最大の都市とのことだが、ヴェニューの周りには特筆すべき何かは殆どなく、ここら一帯は超平凡な街である。唯一、珍しいものと言えば、「ANTIQUE MALL」と書かれた看板を出す、大きな建物だけだ。

そのANTIQUE MALLに入ってみると、そこは地下1階、地上3階建ての巨大なアンティークショップだった。僕は前回のMONOのヨーロッパツアー中、古いドイツ製の万年筆を探しており、ヨーロッパ各地でアンティークショップ、そして北欧各地ではリサイクルショップを狂ったように見て回って来たが、この店ほどの規模を持ったアンティークショップは他に見たことが無い。価格も安く、日本のアンティークショップもこういった海外のアンティークショップから商品を仕入れていることがあるとか

結局、5カナダドル(約410円)で使い道のないゼムクリップを模したステーショナリーを一つだけ購入してしまった。そこまで古くは見えないが、店員さん曰くヴィンテージのものであることは間違いなく、日本で買ったら数千円するかもしれない。が、使い道がない。

[15:45]

約1時間半をうまいことアンティークショップで潰し、ヴェニューに戻って来た。改めてその外観を見ると、オシャレなヴェニューである。しかし、その手前にいる二人を見て欲しい。

Yodaさんがリボーの髪の毛を刈っているのである海外ツアー中は、ものごとを日本の常識で捉えてはいけないのだ。

[16:00]
搬入の時間だ。つい15分前まで晴れていたのに、搬入にタイミングを合わせたかのように大雨が降っている。当たり前だが、楽器、機材類は濡れて欲しくないものばかりなので、雨が止むのを待つことにした。カナダに来てからはこういった突然の雨が多く、カルガリーでは1日に何度か雨に降られた。標高が高いせいだろうか。この雨も今までと同じように15分程度でパッタリと止み、その隙になんとか搬入を済ませる。

[19:30]
MONOのサウンドチェックが終わり、薄い壁を一枚隔てた先のホットドッグ屋で簡単な食事を取っていると、オープニングアクトを務めるバンドがサウンドチェックを始めたようだった。いかにも古そうなオルガンの音がするかと思うと、アナログシンセやエレピのような音もするし、それに加えてギター、ベース、ドラムも聴こえる。一体何人組なんだ?と覗きに行くと、4人組みのバンドが合計で5台の鍵盤楽器、ドラム、ギター、ベースを持ち込んで演奏していた。マジかよ。転換が超大変じゃん。
通常、オープニングアクトを務めるバンドは、ヘッドライン(メインアクト、そのライブのトリ)がステージにセットした機材をなるべく動かさず、それらの前のスペースに自分たちの機材をセットしなければならない。それらはステージ上の掟のようなもので、もしMONOがオープニングアクトを務める時はMONOも同じことをする。今日のオープニングアクトを務める彼らも同様で、ステージに置けない機材はフロアにセッティングしているようだった。

[21:30]
そんな機材を大量に持ち込んで盛大にライブを行ったオープニングアクトが終わり、そしてその大量の機材をそのまま抱えた転換が終わり、MONOのステージが始まる。今日も大きな都市でのライブではないが、フロアの奥にあるバースペースまで人がパンパンに入っている。僕の居場所を作れないくらい人が多い。そんな中、暗闇から誰かに肩を叩かれた。そっちを見てみると、お客さんの1人が「Are you photographer of MONO?(MONOのツアー写真撮ってる人?)」と聞いてきた。
僕はギターテックを務める傍、前回のヨーロッパツアー、そして今回のアメリカツアー中のMONOの写真を撮っていた。クソでかいカメラにクソ長いレンズを付けていたので、それが見ていてすぐに判ったのだろう。僕が「Yes.」と答えると、「Amazing!! you do!!(オマエの写真やべーよ!!)」と言ってくれている。ありがたいことに、MONOのSNSに載っている僕が撮った写真を逐一チェックしてくれているらしい。こういったことはたまにあって、撮影のやりがいを感じさせてくれる。

[6月26日 5:35]
-ライブも、搬出も、その他諸々も、何の問題無しに終わり、僕たちはカナダからまたアメリカへ向かっていた。そう、お馴染みのカナダ国境にある検問所を通るのだ。そして、それはなぜかいつも早朝だった。今回も例に漏れず、朝5時ごろにリボーの「Border~、Border~」という声で全員が起き、パスポートにスタンプを一つ増やしてバスに戻って寝る。明日は移動日だ。このままゆっくり寝よう。

※vol.10に続く
『世界のヴェニューから』バックナンバー

Photographs by Yuichiro Hosokawa
MONO Official Website