ある時はエフェクターを偏愛するライター、またある時はフォトグラファー、そしてまたある時はバンドとともに世界を飛び回るギターテック、細川雄一郎。今回、日本のインストゥルメンタル・ロックバンド、MONOのギターテックとして北米〜南米ツアーに同行した筆者が、知られざる現地ライブハウスの様子や海外ツアーの実態を日記形式で綴ってくれました。ロサンゼルスからメキシコシティまで、全13回にわたる短期集中スペシャル連載スタート!

今日のヴェニュー“Cosmopolitan Senior Centre”

[6月24日 7:00]
豪勢なホテルの気持ち良いベッドで寝てる中、会社勤めだった時からずっと使っているiPhoneのアラーム音が脳髄に響き、悲しいことに反射的に目が覚める。次の都市に移動するため、この優雅なホテルを出てバスに乗り込まなければならない。カナダの美しい景色をバスの窓から覗きながら、次の都市まで約6時間。もちろん、全員が二度寝する。

[15:30]
目が覚めると、そこはサスカトゥーンだった。今回のツアー中、最も口に出したくなる名前の都市、サスカトゥーン。バスは既に出演予定のヴェニューの隣に停まっている。

今日のヴェニュー「Cosmopolitan Senior Centre」は、いわゆるライブハウスのような場所ではなく、新しい貸しホールのようだった。ある程度の規模があり、それなりの照明が常備されているようだ。今日のライブのオーガナイザー、プロモーターがサスカトゥーンに住むMONOファン、そして演奏するMONOのために全力で拵えた会場なのだろう。

サスカトゥーンは素朴な街だ。人工物も自然もある程度に収まっていて、例えるなら老後に住みやすそうな街である。静かではあるが、何も無いわけではない。小規模のショッピングモールがあり、それなりのスーパーマーケットも、お馴染みのセブンイレブンも、しょっぱいながら楽器屋も2軒あった。車があれば生活に困ることはまずない、平和な街だ。

[20:20]

サウンドチェックが終わり、空腹のまま街中を歩いていたが、道端でヴェニューガイらしき人物を捕まえ、近隣の美味しいレストランを聞き出すことに成功した3ブロック先にあるタイ料理屋がカナダでもトップ3に入るぐらい美味いとか。カナダにまで来てタイ料理かよ、とも思うが、ここカナダにはカナダ料理なるものが存在しないと捕まえたヴェニューガイは言う。確かに、カナダの街を歩いていても他国の料理を提供している店しか見たことがない。カナダは世界で2番目に大きい国土を有しているのに、1700年代からイギリス、フランスに統治されてしてしまい、悲しいことに自国ならではの古い文化がそこまで多くないようだ。そもそも、カナダが国として独立したのは1931年。そらカナダ料理無いわ。

そして、タイ料理はめっちゃくちゃ美味かった。僕が食べたのは店独自の創作料理(タイのレッドカレーの中に米粉の麺が入っていた)だったが、東京の有名店と同じか、それ以上のポテンシャルを感じた。万が一、このサスカトゥーンに来るようなことがあれば、”KEO’S”というタイ料理店に寄ってみて欲しい。

[21:30]
MONOの前のオープニングアクトが始ま。少しソフトなRussian Circlesといった雰囲気の5人組のバンドだが、このバンドがどんな音楽性なのか、何人組なのか、もっと言えばその名前すらも事前に知る事は少ない。大都市でのライブでなければ、基本的にオープニングアクトを務めるのはローカルバンド、つまりはその地域で活動している小さなバンドで、事前に接点は少ない。そりゃお互いに顔を合わせれば「Hey! How have you been? Oh, good!! Haha!!(ヘイ!調子はどうだい?オォ、元気か!そりゃ良かったゼ!)」ぐらいのお決まりな挨拶はするし、何かを求められればお互いに応えるが、それ以上に仲が深まることは稀なのである。決してイガみ合っているわけではないが、基本的に楽屋が別室ということもあって、マジで話す機会がないのである。

[22:15]
MONOのライブが始まる。人がまばらだったフロアも空白がなくなり、大いに盛り上がっている。曲の合間ごとに大きな拍手、歓声が巻き起こる。サスカトゥーンのファン、アツイな。あまり頻繁に来る地域ではないがゆえに、ファンは今日のライブを待ち望んでいたのだろう。

今日のライブもなんの問題もなく終えることができた。郊外の都市、まぁ、簡単に言っちゃえば田舎でのライブで不安もあったが、むしろ良い結果しか残らなかった。MONOが世界的に人気なバンドとはいえ、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、メルボルン、上海、東京のような大都市だけでなく、このサスカトゥーンのような地方の街でも同じようにライブを行う。大都市から離れた地方巡りはどんなバンドにとっても重要で、そこには日程を埋めるため、少しでも興行収益を稼ぐため、知名度を上げるため、様々な理由があるとは思うが、ライブ後に純粋なファンの顔を見たり、喜びの声を生で聞くと、結局はそれが何よりの力になると心底思う。僕はバンドメンバーではないが、それでも十分に嬉しくなるし、そしてファンの気持ちもよく解る。

もし自分が日本の地方に住んでいたとして、そこにたまにでも好きなバンドが来てくれたら絶対に観に行くし、DVDYou tubeでしか観れないようなライブを実際に観れたのなら、その感動はよっぽどのものだろう。実際、先日のビリングスや、このサスカトゥーンでのライブに集まったファン達の熱量は、大都市のそれよりも大きかった気がした。大都市以外の地方都市巡り、大事です。明日のウィニペグもどんな純粋なファンに出会えるのか楽しみだ。

※vol.9に続く
『世界のヴェニューから』バックナンバー

Photographs by Yuichiro Hosokawa
MONO Official Website