Official髭男dismがひとつ上の“漢”(ルビ:オトコ)を目指し、あらゆる分野のエキスパートに会って教養を深めつつダンディ偏差値を爆上げする連載。第4回目は「音楽専門学校 東京スクールオブミュージック専門学校 渋谷」にお邪魔して、ひとつ上のアーティストになるためのDTM講座について学んできたぞ! かなりマニアックな内容ですが、ミュージシャンにとってDTMは切っても切れない存在。メンバーが抱えるDTMの悩みとは…!? 今回はライヴにおけるSE制作の話にまで言及。非常にマニアックな内容なので心して読むべし!

Dandy 8:ひとつ上のアーティストのためのDTM講座《後編》

藤井丈司さん
サザンオールスターズや布袋寅泰、JUDY AND MARY、ウルフルズ等の作品にプロデューサーとして携わりミリオンヒットを連発。最近ではBRADIO等を手掛けている音楽プロデューサー。

音楽は人の頭の中に音響空間を作ること

――メンバーから先生にDTMについて聞きたいことはありますか?
小笹 ギターのデモを録ってヴォーカルの聡くんに戻す時、ギターのミックスが全然わからなくて。Logicの中にもミックスできる機能がいろいろと内蔵されているじゃないですか? いっつもプリセットを指すだけで送っちゃうんですけど。
先生 イコライザーとかそういうこと? コンプとか?
小笹 そうですね。いつもエレクトリックギターを選んで、そこに入っているEQだけかまして送る感じなんです。
先生 いいんじゃない?
一同 (笑)。
藤原 あとでエフェクターで差し替えるから、何にも気にしたことがない。
先生 どんな段階でもそうなんだけど、“ステレオピクチャー”って習ったことある?
藤原 いや、初めてです。
先生 簡単な話なんだけどさ、音楽を作るとするじゃん?

先生 低い音、高い音、右の音、左の音があるとして、要するに低い音と高い音を右と左のどこに配置するかっていうのがステレオピクチャーっていうの。音楽って動いてるじゃない? 最初に歌とギターだけで始まるのが、たとえば1番のBからベースが出てくる、サビでドラムが出てきてスネアやシンバルがここらへんにいて。こういう音楽の周波数の定位が動画のコマ送りのように変わっていくわけだから、ギターをどうやってまとめたらいいかを考える時、ステレオピクチャーのどこに自分のギターを置くかを考えるといいね。
小笹 なるほど。

先生 1~3弦のアルペジオで高いところを弾いたとするでしょ? 高いところにあるわけだから、もしかしたらストリングスとぶつかるかもしれない。そういう風にギターはどこに置こうかなとか、ピアノをどこに置こうかなとか、それはドラムもベースも一緒なんだけど、ステレオピクチャーを描くというかイメージしてみる。音楽って人の頭の中に音響空間、サウンドを作ってあげることだから。そこに言葉と声が乗って、意味のある情報が乗って、空間が意味のあるものになる。それが時間軸として動くのが俺たちがやっている音楽じゃない? だから、ステレオピクチャーの中で考えていくとまとまる。ここまではいいですか?
小笹 はい!
先生 で、これが二次元です。平面なんだけど前に出てくる音と後ろにいる音がある。ストリングスを柔らかく弾くと後ろに、強くジャラーンって弾くと前に出てくる。ドラムだってそうじゃないですか。強く叩くとバン!って前に出てくるし、弱く叩くと後ろになる。三次元になるというか。前に出ているほうをフォアグランド、後ろにいることをバックグランドと言います。だから、バックグラウンドミュージック(BGM)って言ったりするでしょ? それに対してヴォーカルは常に前にいるわけです。これが後ろでスーッて鳴ってるようなアコギとか、ストロークで弾いたりすると前に出てこなくなる。前に出る音もあれば後ろにいる音もある。それが三次元になって、三次元のセル画みたいなのが動いてるイメージになってくると、より音の置き方が考えやすくなる。EQとかコンプとかがそうだけど、コンプをかけるとボンッて音が前に出てくるわけですよ。
全員 ほぉ~。
松浦 ステレオピクチャー…初めて聞きました。
先生 ステピクね。
藤原 ははは(笑)。

歌を印象的にするならディレイとリバーブ

藤原 僕、けっこうデモで歌を録ることが多くて。みんなに聴いてもらうために。でも自分の歌の処理に満足してなくて。機材のわりに、いいミックスができていないなと思ってて。ヴォーカルをミックスしていく上で、自分の声の美味しい帯域を上手く探すコツってLogic上であったりしますか?
先生 Channel Strip(エフェクト)とか。
藤原 たまに使うんですけど。
先生 エフェクト数が少ないんだよね。Cubaseはすごく豊富で、微調整しながら聴いてチェックするっていう方法がありますね。それがひとつと、あと普通にかけるならコンプとEQ。コンプを使った音楽は? どんな音楽が好きなの?
藤原 好きな音楽ジャンルはめちゃくちゃで、ヘヴィメタルも聴くしモータウンも聴くっていう状態で。歌の質感で好きなのは、洋楽の最新のR&Bが多いですね。で、クリアな歌をなるべくデモの段階から録りたくて。それは曲の良さをみんなに知ってもらいたいからとかではなくて、自分がやってて気持ちいいからやりたいんです。いまいちコンプレッサーの使い勝手が…。
先生 なるほど。モータウンとかヘヴィメタルとか、80年代はわりとヴォーカルにコンプをかけてるんですよ。人間の声って音量差があるから、大きく録音して歪んでしまったものを抑えるためにコンプをかけることが多かったんだけど、ここ10年かな、DAWのスペックが上がっていわゆる96kHz / 32bitになると歪むこともなくなったので、基本的にコンプを使わなくなった。意識してコンプっぽいヴォーカルを録ろうとする以外は、今はノーコンプで録るのが基本なんです。
藤原 じゃあ歌録りのときも、マイクとマイクプリでそのままパソコンに行く感じですか?
先生 そうそう。
松浦 ほー。
藤原 なるほど、そうなんだ。

先生 この5年くらいでね。特に日本の場合は…まぁ世界的にそうだけど。もともとプロのエンジニアがコンプを使うのは、ヴォーカルの微妙なニュアンスを失わないようにっていうのが基本だったんだよ。だから特にR&Bが好きだったら、あまりコンプはかける必要がない。だから、バンドでドラムがガーン!ッて叩く、ベースも弾く、ギターもガー!って弾く場合は、アタックも強いしレンジも広いというか歪んでいたりする。それに負けないように、どういう風に歌っても声が聴こえる状態にする曲のときには、コンプじゃなくてプレイバックのときに強くかければいい。
藤原 なるほど。
先生 コンプをかけても聴きづらくなるだけ。
藤原 じゃあミックスのときに、オケから浮かび上がらせるためにかけることは?
先生 そうそう。でもそれはヴォーカルだけじゃなくて、それぞれの楽器にトータルでコンプを使うわけですよ。そことの相性というか。
藤原 うんうん、なるほど。コンプをかける以外に、ミックスでヴォーカルの存在感を出す方法は?
先生 前に出すというか、印象的にするんだったらディレイとリバーブだよね。その使い方を自分なりに面白くできればいいというか。それは前に出るというか印象的になる。
藤原 声類にまとめてディレイ/リバーブをかけちゃうことってあるじゃないですか。バンドに混ぜちゃうとわからないけど、声だけ聴いていると実はディレイとリバーブかかってますみたいな。あれも声を浮かび上がらせるための工夫なんですか?
先生 うん。それとオケに馴染むというか。楽器は音がバン!って鳴ったあとに“ブン”とか“ジャン”とか楽器ごとに残響があるでしょ? でもヴォーカルは基本的にバッと止めると何も響かないから、音の余韻みたいなものがあると馴染むんだよね。馴染んで雰囲気が出るのが一番大事かなって。

藤原 デモでそこまで作り込むには時間があればやるんですけど、技術が必要とされるなと。ツアーのSEも毎回自分で作っているんですけど。
先生 エライね~。
藤原 ミックスを自分でやらないといけないっていう状態までやることが多くて、その時にいまいち自分の中でディレイとかリバーブの使い方が理解できていない部分があったので、勉強になりました。あと、すぐにピーク(信号のレベルで一番高い瞬間の値)がつきます。
先生 つくつく。さっきのステレオピクチャー的なものがグチャグチャっとなっている状態だね。でもやっぱり音圧が欲しいから。
藤原 そうですね。結局そのSEはマスタリングとかしないので、自分がバウンスしたものを会場で流してて。
先生 けっこう爆音で流すの?
藤原 爆音で。バーン!と。あと一度、全員がハンドマイクで歌うようにして、自分でリミックスした音源を本番で流したことがあったんですけど、DTM上での波形と会場での聴こえ方が全然違って、16分音符1つ分くらいローが回って聴こえて大惨事になったことがあって。それを踏まえて、前回のツアーのSEでは60あたりからの音域をズバッ!と切ったんですよ。そうしたら今度は“何か足りねぇ”みたいになって。もう嫌だなって(笑)。

先生 ライヴPAに合わせるオケを作るのは大変だし、それがマニピュレーターの仕事になりつつあるというか。
藤原 そこらへんも任せられるといいんですけど…。妥協と言うか、落としどころを見つけなきゃいけないんだなってその時に思いました。
先生 地味なほうに作ったものをPAさんに渡して、“あとはどうにかしてください”ってお願いするほうがいいよ。派手に作ったものを大音量で流すとお客さんは耳が痛い(苦笑)。それは会場でチューニングしてもらったほうがいいと思う。
藤原 一度パソコンのデータで持って行って、リハで入念にバランスを確認したことがありましたけど。
先生 真面目だねぇ。
藤原 あれほど無駄なことはありませんでした。
全員 (笑)。
藤原 もうやりません(笑)。
先生 PAさんとの連携だよね。PAさんもLogicを持ってくださいって。
藤原 あ! そうですね。プロジェクトを送りつけようかな(笑)。
先生 あとはお願いしますみたいな(笑)。
藤原 そうしましょう。それいいですね! だいぶマニアックな話になっちゃった…。
松浦 めちゃくちゃ長い記事になりそうだね(笑)。

――かいつまんで紹介しようと思います(笑)。
藤原 SEはパソコンで作ってますってことで!
楢崎 あと、DTMよりも結果的に生のほうがいいっていう(笑)。いやぁ、めっちゃ楽しい。
藤原 アレンジのことがすごく勉強になりました。

[#5] Official髭男dismのRoad to Dandy『ひとつ上のアーティストのためのDTM講座』《前編》
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東京スクールオブミュージック

■Official髭男dism

オフィシャル ヒゲ ダンディズム / 12年結成。メンバーは、藤原聡(Vo,Pf)、小笹大輔(Gt)、松浦匡希(Dr)、楢崎誠(Ba)。15年、ミニアルバム『ラブとピースは君の中』でデビュー。

■NEW ALBUM『エスカパレード

【通常盤(CDのみ)】¥2,800+税
【初回限定盤(CD+DVD)】¥3,500+税
LASTRUM

■TOUR SCHEDULE
【Official髭男dism one-man tour 2018】
5/3(木)仙台darwin
5/12(土)熊本B.9 V2
5/13(日)福岡DRUM Be-1
5/25(金)広島BLUE LIVE HIROSHIMA
5/26(土)大阪サンケイホールプリーゼ
6/2(土)水戸ライトハウス
6/9(土)名古屋ダイヤモンドホール
6/16(土)岡山IMAGE
6/17(日)米子laughs
6/24(日)柏PALOOZA
6/29(金)金沢vanvan V4
7/5(木)中野サンプラザ
7/15(日)北海道いわみざわ公園
7/22(日)福岡 国営 海の中道海浜公園 野外劇場・子供の広場

【Official髭男dism one-man tour 18/19】
<2018年>
11/7(水)横浜Bay Hall
11/10(土)札幌cube garden
11/17(土)高松DIME
11/18(日)松山サロンキティ
11/22(木)松江AZTiC canova
11/24(土)米子AZTiC laughs
11/25(日)広島CLUB QUATTRO
11/28(水)HEAVEN’S ROCK さいたま新都心
12/1(土)チームスマイル・仙台PIT
12/2(日)郡山CLUB #9
12/9(日)水戸ライトハウス
12/15(土)新潟GOLDEN PIGS RED STAGE
12/16(日)長野CLUB JUNK BOX

<2019年>
1/11(金)大阪NHK大阪ホール
1/12(土)鳥取米子市文化ホール
1/18(金)静岡Live House 浜松 窓枠
1/19(土)愛知日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
1/24(木)東京NHKホール
1/26(土)福岡DRUM LOGOS
1/27(日)鹿児島SR HALL
2/2(土)島根県民会館 大ホール