歌詞を書いて「ありがとう」なんて言われるなんて。 言葉なんて誰でも扱えるのに。 特殊な能力や技術じゃないからこそ。 だからこそプライド持ってやってるのかな。 なんて思います。 これは歌詞の説明ではありません。 これは歌詞の解説ではありません。 今までの歌詞はあれ以上でも以下でもありません。 ここにあるのは自分で書いた歌詞の行間と字余り。

『nice to』

nice to meet you
【訳語】
初めてお目にかかります、お会いできて嬉しいです、ごきげんよう、はじめまして

 

本当の心が傷つくことも。
本当の意味で罪を犯すことも。
本当の顔で嘘をつくことも。
ないに越したことはないが今では呼吸をするくらい容易くできてしまう。
それでもあの頃はその一つ一つに胸騒ぎを覚えながら汚れていく自分に人見知りしていた。

小学校から家まではかなり時間がかかる。
今思うとよくこんなに六年間も歩いたもんだと思う。
土曜日の授業は午前まで。
午後から所属するサッカーチームの練習があるが、それが理由で急いで帰るわけではない。
土曜日正午に吉本新喜劇が放送されているからだ。
僕は駆け足で家路につき、新喜劇を観ながら昼食を食べ、サッカーに行く。
僕はそんな土曜日が好きだった。
ある日、日曜のように土曜日も学校が休みになるという。
いわゆる週休二日制だ。
僕が一番初めに思ったことは「あ、これからは走らなくても新喜劇が観れる」
というものだった。
土曜日が好きだった。

昼前に起きてテレビをつける。
ニュースなどはしていない。
そこで今日が平日でないことに気づく。
そこから番組名もわからない番組が続く。
新喜劇の流れていない東京では今日が土曜なのか日曜なのか判断するのに時間がかかるのだ。
学校のない時間割のない東京では今日が何曜日なのか判断するのに時間がかかるのだ。
曜日感覚のなくなってしまった僕には東京の電車の混み具合の方が判断材料になりやすい。
土曜日が好きだったな。
なんて思いながらライブハウスへ向かう。
今僕は土日にライブがあることが多い生活なのだ。

月のようにいたい。
寡黙に凛としたその佇まい。
太陽系の惑星とは一線を画し。
ていうか惑星ではなく衛星なんやけど。
そのアウトロー感も美しい。
火のように燃えていたい。
時には周りをも燃やしてしまうほどの火力で。
灰さえも残すな。
水のように形ないものでいたい。
僕らは水中では生活できないのに地球の七割が水だなんておもしろいよな。
木のように優しくも上を目指したい。
ゆっくりでしか上にいけないのも愛しい。
僕の名前にも樹があるのだから。
金がほしい。
ある程度わかってきた。
金に執着することは滑稽だが、金がなさすぎることも滑稽なのだと。
土に還りたい。
綺麗な花なんて咲かせることはできないだろう。
立派な葬式なんてしなくていいから数人が悲しんでくれた後、土に還りたい。
大阪の土がいいな。
それらを目にすることができるのは光があるから。
闇には闇しかない。
日はこれら素敵なものから残酷なものまでのリアルを僕の目に映した。

はじめまして僕の痛み、はじめまして僕の罪、はじめまして僕の嘘。
こうも訳せる。
痛み君お会いできて嬉しいです、罪ちゃんお会いできて嬉しいです、嘘さんお会いできて嬉しいです。
こうも訳せる。
人生で初めてこれらの罪悪感を覚えた時なんていちいち覚えてないけど、それらは確かにそして幸か不幸か僕の一部。
ポジティブなはじめましてにもネガティブなはじめましてにも、お会いできて嬉しいですと言えるだろうか。
言いたい。

当たり前の忘れ方を人はよく知っている。
慣れたり飽きたり。
自分も当たり前にそうだ。
だからこそここに歌にした。
だからこそ僕はいつも同じ世界観を歌詞にしている。
人によって当たり前の基準が違うのもまたおもしろい。
そんなことも当たり前。
でも生きていることだけは当たり前じゃないことは誰しもにとっても当たり前。
あなたの優しい嘘もあなたがくれるキスも当たり前じゃない。

『nice to』

月はただひたすらに沈黙を
火は全てを無くしてしまおうと
水は見えるもの全てを生かし
木は優しく茂り、雲に手を伸ばすように
金は廻り、目を死んだものにして
土は全てを受け入れるだろう

当たり前の忘れ方を人はよく知ってる
だから今 当たり前を忘れないように
忘れないように歌にしよう

nice to meet you my pain
nice to meet you my crime
nice to meet you my lie

日は僕の目に残酷なリアルを映した

nice to meet you everything
nice to meet you your lie
nice to meet you your kiss

『行間と字余り』バックナンバー
[第2夜 #1]『大山さん』Guest: タナカヒロキ (LEGO BIG MORL)

LEGO BIG MORL OFFICIAL SITE
タナカヒロキ/ Twitter

LEGO BIG MORL

(R toL) タナカヒロキ(Gt.)、カナタタケヒロ(Vo & Gt.)、ヤマモトシンタロウ(Ba.)、アサカワヒロ(Dr.)。2006年大阪にて活動を開始。2009年に1stフル・アルバム『Quartette Parade』でメジャーデビュー。現在に至るまでにベストアルバム1枚を含む6枚のアルバム、11枚のシングルをリリースしている。